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青森地方裁判所 平成7年(行ウ)3号 判決 2000年10月31日

原告

右訴訟代理人弁護士

横山慶一

被告

十和田税務署長 玉川勲

右指定代理人

近藤裕之

野呂恒雄

高橋藤人

佐藤勉

金田和典

畑中長規

蛯澤政則

菅野恵一

鈴木芳樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対しいずれも平成四年一二月二二日付けでした次の各処分(以下「本件各処分」という。)を取り消す。

一  原告の平成元年分の所得税の更正処分(ただし、平成五年六月二一日付け異議決定により一部取り消された後のもの。)のうち総所得金額を七二万九四八一円として計算した額を超える部分及び右所得税更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、右異議決定により一部取り消された後のもの。)

二  原告の平成二年分の所得税の更正処分のうち総所得金額を九二万三五〇〇円として計算した額を超える部分及び右所得税更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分

三  原告の平成三年分の所得税の更正処分のうち総所得金額を四一万〇九一七円として計算した額を超える部分及び右所得税更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分

四  原告の平成二年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税の更正処分のうち、課税標準額五六五七万二〇〇〇円、納付すべき消費税額三〇万〇六〇〇円を超える部分及び右消費税更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分

五  原告の平成三年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間の消費税の更正処分のうち、課税標準額五二四八万六〇〇〇円、納付すべき消費税額二三万六〇〇〇円を超える部分及び右消費税更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、平成元年ないし平成三年当時青森県上北郡七戸町内でスナック「A」及び寿司店「B」を営んでいたいわゆる白色申告者である。

2  原告が被告に対してした平成元年分ないし平成三年分の所得税並びに平成二年一月一日から同年一二月三一日まで及び平成三年一月一日から同年一二月三一日までの各課税期間の消費税の確定申告、被告がした更正及び過少申告加算税賦課決定並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の内容及び経緯は、別紙一及び二のとおりである。

二  争点

本件の争点は、<1>被告が本件各処分に至る過程で行った税務調査の違法の有無、<2>被告が本件各処分の適法性を基礎づけるために行った推計課税の必要性及び合理性の有無である。

1  税務調査の違法

(原告の主張)

(一)(1) 本件各処分に先立つ平成三年九月二四日午前九時五五分ころ、十和田税務署の職員だと名乗る者二名が原告方を訪れ、体調が悪いので後にしてほしい旨の原告の申し出を拒否し、調査を実施した。右両名は、十和田税務署の者だというものの氏名は名乗らず、身分証明書も提示しなかった。その用件は所得の確認とのことだったので、原告が電話インターホンで夫である乙と連絡を取り、係官の一人と電話を替わった。乙がこの係官に帳簿は手元にないので後で届ける旨を話したところ、必要はないなどと述べて電話を切った。

原告は、係官から現金、通帳、印鑑、生命保険証書、カード類がどこにあるか尋ねられ、二階にある旨話したところ、係官は確認するので出すようにと述べた上、寝室で布団も上げていないから困るという原告の言葉を無視して、二階の寝室まで取りに行こうとする原告の後を一名がついてきた。原告がタンスから財布と通帳を出したところ、原告の後をついてきた係官は財布の中から現金を取り出し、金額を確かめてから現金を原告に渡して数えるように指示し、原告が数えている間に通帳の内容をメモし、さらに原告にレジの中の現金を数えさせた上で、自分でもレジの中に手を掛けて中を探った。もう一方の店舗でも、係官は、同様に原告に現金を数えさせた上、レジの中を探った。

右の後、二名の係官がまた来るからと言って帰ろうとしたので、原告が名前を聞いたところ、一人が「新井場」と答え、もう一人は答えなかった。

(2) 平成四年五月二五日午後四時ころ、十和田税務署の職員と名乗る人物二名が原告の営業する飲食店を訪れ、原告が不在であったため、乙が応対したが、原告が午後五時過ぎに帰ること、店の営業時間なので翌日にしてほしい旨述べても、それを無視し、店の玄関前に立っていた。乙が名前を尋ねると、鈴木、多田と名乗った。乙が客の出入りに困るので、中に入るように言っても、これを無視し、玄関前から動こうとしなかった。

(3) 同年八月一一日午後二時ころ、十和田税務署職員である土田と佐藤の両名が原告方を訪れた。原告は、電話インターホンで乙と連絡を取ろうとしたが、留守のようであったので、店の方ではないかとその方に歩いて行くと、両職員もついて来て、土田は、大声で「あんたが納税義務者でしょう。」と怒鳴り、「あんたに用があるんだ」とも叫んだ。原告は、経理事務は乙がやっていることを説明しても聞き入れなかった。結局、乙は見つからず、原告が帰ったら連絡させる旨を話し、やっと帰った。

(4) 同年一二月一七日午前九時四五分ころ、十和田税務署の土田と佐藤の両名が原告方を訪れ、原告を起こすよう要求した。原告の娘が体調を崩し、十和田市の病院から午前三時ころ帰宅して寝ていることを話しても聞き入れず、さらに乙が娘が流産の危険があり、様子を見ている旨詳しく説明しても聞き入れず、原告を起こすよう要求した。乙が原告に代わって聞く旨話しても、「あなたが納税者か、あなたには用はない」と述べ、原告を出すよう大声で怒鳴り続け、五〇分程して引き上げていった。

(二) 十和田税務署の係官が行った調査は、右のように早朝突然に原告方を訪れて強圧的な態度で行われた強制捜査の実態を有する違法な調査であり、とりわけ最初の訪問に際しては、身分証明書の提示をせず、調査実施の事前通知と調査理由の開示を怠った点において違法性は強い。また、原告の営業に関して経理事務を担当している乙に説明を求めることをせず、むしろ乙の申出を拒否までした被告の行為は「初めに推計課税ありき」の行為であり、調査は推計課税が必要であったとの形式を整えるために行われたにすぎない。

したがって、本件各処分は、その手続過程に違法があり、取り消されるべきである。

(被告の主張)

(一) 原告の主張事実は否認する。

(二) 十和田税務署の係官は、平成三年九月二四日の最初の訪問時においても、原告の協力を得て調査を行っており、事前通知及び調査理由の開示は質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではなく、また、担当調査官らは身分証明書を提示したし、仮に提示しなかったとしても、そのことから直ちに本件税務調査が違法となるわけではない。したがって、本件税務調査には強制捜査のごとき調査というべき事情はないから、質問検査の手続に原告主張の違法はない。

2  推計課税の必要性

(被告の主張)

(一) 本件各処分をするに先立って、十和田税務署の担当職員は、平成三年九月から平成四年一二月までの間、複数回にわたり原告の事業所に赴き、あるいは電話連絡を試みることによって、原告及び乙に対し繰り返し調査への協力を要請し、帳簿書類等の提示を求めた。しかるに、乙は調査に非協力的な態度をあらわにし続け、担当職員の説得にもかかわらず帳簿書類の提出には一切応じなかった。また、原告も、乙に追随して同人の対応をなすがままにし、帳簿書類等の提出には応じなかった。このように、原告及び乙は十和田税務署の係官の再三の要請にもかかわらず終始帳簿書類等の提出に応じようとしなかったため、本件各処分当時、帳簿書類等の直接資料の提出について原告の協力を得ることは不可能であり、被告が直接資料に基づき実額課税を行うことは不可能であった。

(二) 推計課税の必要性の要件は、原処分の時点において備わっていれば足りるから、異議申立手続において実額課税を可能にするだけの帳簿書類等の直接資料が提出されたとしても、原処分における推計課税の必要性が遡って失われ、原処分が違法となることはない。

もっとも、異議申立ての段階で提出された帳簿書類等が原告の収入金額及び必要経費を把握するに足りるもので、認定される所得金額が本件各処分の推計に係るそれを下回る場合には、異議審理庁としては推計課税に基づく原処分を維持すべきではないが、本件において原告が異議申立て及び審査請求の各不服申立手続で提出した資料は原告の収入及び必要経費を把握するには足りず、実額課税は不可能であった。

(原告の主張)

本件各処分以前の十和田税務署による調査の際、原告は売上伝票等の資料を提出する予定であったし、乙も担当係官に事情を説明しようと申し出たが、被告側が一方的に調査を打ち切ったものである。

また、被告は、前記のような強権的な調査を行った上、これに抗議した原告及びその知人らの態度をもって調査拒否と認定したにすぎず、推計課税の必要性があるとはいえない。被告の不適切な調査に対して異議を述べ抗議をするのは原告の正当な権利であって、被告が節度をわきまえた適切な調査をしていれば原告はできる限りの対応をしたはずであり、推計課税をする必要はなかった。

さらに、原告は、異議申立手続において帳簿書類を提出し、実額計算による算定が可能となるよう協力をしたが、被告は実額計算による算定をする努力をしなかった。右資料を検討し、あるいは原告の経理を担当している乙に事情聴取をすれば、原告の所得金額を実額で把握することは可能であった。

3  推計課税の合理性等

(被告の主張)

(一) 推計の過程及び結果

本件各処分の適法性を基礎づける被告主張の課税標準額の算定に当たり被告が行った推計の内容は、以下のとおりである。

(1) 業種の把握

原告が「A」で営む事業は明らかにスナック業に分類されるものであり、「B」における事業は、店舗の構造や仕入金額の多くを鮮魚類が占めることから、寿司業に分類されるべきものと認められた。

(2) 同業者の抽出

原告が寿司業及びスナック業を独立した店舗で営んでおり、経営上の関連性もないことから、それぞれの業種について、次のとおりの方法により、同一業種で、事業形態、事業規模、立地条件等が類似していると認められる同業者を抽出した。

<1> 業種

寿司業とスナック業それぞれの業種ごとに限定して抽出し、兼業者を除外した。

<2> 事業形態

原告と同じ個人事業者に限定した上、同一業種を複数の店舗で営業している者及び事業専従者の数が二名以上の者を除外した。

<3> 立地条件の類似性

抽出の対象を、原告の各事業所の所在地を管轄する十和田税務署管内における事業者に限定した。ただし、スナック業については、十和田税務署管内からは酒類の売上原価において<4>の事業規模に関する倍半基準に該当する同業者が抽出されなかったため、調査範囲を青森県内の税務署管内に広げた。

<4> 事業規模

原告について推計の基礎資料として確実に把握できたのは酒類の年間仕入金額のみであったため、酒類の売上原価において原告と同規模の者を類似同業者として抽出することとし、酒類の売上原価が原告のそれの半分以上二倍以下の範囲(いわゆる倍半基準)にある者を抽出した。

<5> その他

原告と事業形態の異なる者を除外し、また数値の正確性を確保するため、<1>青色申告者であること、<2>年間を通じて同種事業を継続している者であること、<3>災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者であること、<4>不服申立て等により申告額が確定していない者以外の者であること、を条件とした。

(3) 抽出の結果

右(2)の方法により抽出された原告の類似同業者の数は、寿司業とスナック業それぞれについて、平成元年が四件と三件、平成二年が四件と二件、平成三年が六件と五件であった(別表一参照)。

(4) 売上原価率及び所得率の平均値の算出

別表一のとおり、右(3)の類似同業者それぞれについて酒類の原価が売上金額(税込み。以下同じ。)に占める割合(酒類の売上原価率・別表一の<3>欄)及び所得金額が売上金額に占める割合(所得率・同表の<8>欄)を算出した上、それぞれの平均値を算出した。

なお、原告が寿司業とスナック業を兼業し、独立の店舗でほぼ同じ営業時間に営業し、原告と乙が各店舗で営業しているという特殊な営業実態は、専従者のいない業態と類似しているものの、寿司業では専従者のいない同業者を抽出することができなかったため、所得率の計算においては、右の営業実態を反映するため、寿司業及びスナック業ともに抽出された類似同業者の専従者給与の金額を一般の従業員に支払った金額とみなして差し引くこととし、各同業者につき事業専従者控除前所得である特前所得(同表の<4>欄)から専従者給与の金額(同表の<6>欄)を控除した金額を所得の額として用いた(同表の<7>欄)。

(5) 原告の売上原価の把握

原告の酒類の仕入先として判明した有限会社Cに対する反面調査により平成元年ないし平成三年の各月別の原告との取引額を把握した(別表二の<2>欄)。

なお、同店からの総仕入額のうち酒類の仕入額の占める割合が平成元年ないし平成三年においては不明であったため、明確に把握し得た平成四年一月分ないし同年七月分における各月の右割合の平均値を用い、酒類の仕入金額を推計した。

また、平成元年の一月ないし五月及び一二月並びに平成二年の八月及び一二月については仕入れ中の寿司業とスナック業、自家消費分の区別が不明であったが、その場合は、明確に区別を把握し得た他の年(翌年又は翌々年)の同月期における構成比の平均値をもって按分計算をした。

このほか、本件各処分の課税年ないしは課税期間の期首期末の酒類の棚卸高については、これを算定するに足りる資料が得られなかったが、原告の事業内容等に照らし酒類の棚卸高に著しい変動はないと認められることを根拠に、期首(年初)及び期末(年末)の酒類の棚卸高には差がないものとみて、期中の酒類の年間仕入額をもって酒類の売上原価とした。

(6) 売上金額(税込み)の推計

右(5)により把握した原告の業種毎の酒類の売上原価を(4)で得た類似同業者の酒類の売上原価率の平均値で除して各係争期間の原告の事業毎の売上金額(税込み)を推計した(別表二の<3>欄)。

(7) 特前所得金額の推計

右(6)の売上金額に(4)で得た類似同業者の所得率の平均値を乗じて、各係争期間の事業毎の特前所得金額を推計した(別表三)。

(二) 処分の根拠

本件各処分の根拠は、次のとおりである。

(1) 所得税の課税標準額

原告が独立して営む寿司店及びスナックのそれぞれについて、事業による特前所得金額を右(一)の方法により推計し(別表三の<3>欄)、この額から原告について適用される事業専従者である乙に係る事業専従者控除額(いずれも年八〇万円)を控除した額が所得税法上の事業所得の金額となる(別表四)。

原告には、右の事業所得以外に申告すべき所得は認められないので、各係争年度の事業所得金額がそのまま各年度の課税標準となる総所得金額となる。

(2) 消費税の課税標準額

原告が営む寿司店及びスナックのそれぞれについて各課税期間の税込みの売上金額を右(一)の方法により推計し(別表二の<3>欄)、この額を税抜きの金額に引き直すために一〇三分の一〇〇を乗じて得た金額が、その各係争期間毎の合計が課税標準となる売上金額となる(別表五)。

(三) 推計課税の合理性

(1) 推計課税は、直接資料を用いて所得を認定する実額課税に代わるそれ自体一つの課税方式であって、所得の実額の近似値を求めるいわば概算課税の性質を有している。したがって、推計課税における推計の合理性は、所得の実額との関係で厳密な整合性を有する必要はなく、実額課税に代わる方法としてふさわしいといい得る程度のもので足りるというべきである。

また、推計の基準となる類似同業者の抽出においては、各同業者間に個々的な差異があることを前提としながら、ある一定の基準のもとに比較的類似していると認められる同業者の一群を抽出し、これら同業者から算出した数値の推計基準としての合理性が問題なのであるから、抽出基準自体が合理的であれば足り、同業者の個々の諸事情あるいは細部にわたる種々の差異は、推計の基礎数値を平均値により算定する過程で解消されるから問題とはならない。

(2) 本件において、原告が営む寿司業とスナック業のそれぞれの年間売上金額及び所得金額を同業者比率により推計した前記(一)の方法は、推計方法として一般的に用いられ、その合理性も高く評価されている。そして、同業者の抽出に当たっては、青色申告者である個人の同業者の中から、業種・業態の同一性、立地条件の類似性、事業規模の類似性、資料の正確性等の基準により機械的に抽出したものであって、その抽出過程及び抽出結果(件数)は十分な合理性を有している。

そして、本件各処分の適法性を基礎づけるために被告が行った推計方法は、原告と同種・同規模の同業者を漏れなく抽出するに足りる抽出基準を用いており、被告はこの基準に従い該当する同業者を機械的に抽出したのであるから、そこに恣意の介在する余地はない。

(四) 本件各処分の適法性

本件各処分は、右の経過により算出された所得金額及び売上金額をもとに別紙一のとおり税額を定めたものであるから、いずれも適法なものである。

また、本件各処分に係る所得税及び消費税については、期限内申告書が提出された場合において更正があったものであり、しかも原告が納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、原告は国税通則法六五条に基づき計算した金額を過少申告加算税として納付すべき義務を負うものであるところ、その金額は別紙一のとおりであり、その各処分もまた適法である。

(原告の主張)

被告主張の推計の方法は営業実態を無視したものになりかねない。とりわけ、十和田税務署の所轄地域は、業態・規模・立地条件等が類似している同種業者の数は限られ、その平均値を取っても営業実態と乖離した値が出る危険は高く、現に被告は原告の営業地域とは経済力の異なる八戸税務署管内の同業者を抽出している。

第三争点に対する判断

一  前提事実

証拠(甲一八、一九、乙三ないし五、七、証人新井場敏勝、同鈴木勇一、同土田彰、同乙、原告本人(ただし、証人乙の証言及び原告本人尋問の結果については、後記採用しない部分を除く))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証人乙の証言及び原告本人尋問の結果並びに甲第一八、一九号証の各記述部分は、前掲各証拠に照らし、いずれも採用しない。

1  十和田税務署所属の新井場敏勝調査官と鈴木勇一事務官は、平成三年九月二四日午前一〇時一五分ころ、「B」と「A」に臨場し、原告の所得税及び消費税に関する調査を行った。この際、新井場調査官らが「B」に赴いたところ、原告は二階から降りてきたので、新井場調査官らは、原告に対し、身分証明書及び質問検査証を提示して身分を名乗り、昭和六三年から平成二年分までの所得税と消費税の所得金額の確認に来た旨告げた。すると原告は、帳簿書類については、平成三年分については未整理であり、過去の分は上北町の商工会の知人に預けてあると説明し、さらにインターホンで応対した乙からも同様の説明があったため、新井場調査官らはその内容を確認することができなかった。新井場調査官は、原告に対し、次回の調査で帳簿等を確認したいので早めに準備をしてほしいとの協力を要請したところ、原告は、二、三日中には準備すると答えた。その後、新井場調査官は、原告から事業概要等を聴取し、さらに現金や預金の保管状況の確認をさせてほしいと申し入れた。原告は、その保管場所が二階の自分の寝室にあるので、掃除もしていないし困ると言ってこれを断ったが、新井場調査官は、自分らには守秘義務があり、今回の調査の内容については一切他言しないとして説得を繰り返した。しばらく押し問答が続いた後、新井場調査官が職員一人を部屋の入り口まで行かせることにすることでどうかと申し入れたところ、原告は二階の方に上がって行ったので、鈴木事務官がこれに随行して一緒に上がって行った。この際、原告は特に拒否するような素振りを示さなかった。鈴木事務官は寝室の戸口の手前の階段のところで立ち止まり、その場で原告が寝室内でタンスの中からバッグ等を取り出すのを確認した。その後、原告はバッグを持って鈴木事務官と一緒に二階から降りてきたので、新井場調査官は、バッグ内の在中物を原告に出してもらい、現金を原告に数えさせてメモに取り、また通帳の口座番号を確認した。その後、原告は二階にもう一つバッグがあると言うので、鈴木事務官は原告に随行してそのバッグを取りに二階の寝室に入り、原告がタンスからバッグを取り出すのを確認した。この際も原告はとりたてて拒否するような態度は示さなかった。新井場調査官らは、さらに「B」のレジスター内の現金を原告に出してもらい確認した上、「A」にも赴き、同様にしてレジスター内を調査し伝票を確認した。新井場調査官らは、同日の調査は右の程度にとどめることにし、自分の連絡先と名前をメモに書いて原告に渡し、調査を終了した。

2  原告は、同年一〇月二日午後四時過ぎ、乙、上十三民主商工会事務局長及び同会会員らとともに十和田税務署を訪れ、初回の臨場調査の態様について抗議をした。

3  新井場調査官は、同年一〇月二二日午後原告方に電話をかけたが、原告が不在であったため、後でかけ直すこととして電話を終えた。

その三〇分ほど後、乙から折り返し電話があり右電話の用件を尋ねてきたため、新井場調査官は、原告方を訪問して帳簿書類を確認したいと述べた。すると、乙は、「帳簿は用意したが、この前の回答を聞いていない。」、「話は聞いているだろう。税務署にこの間行って話してきたやつだ。」、「この前行ったときに、後で回答すると言っただろう、それなのに今まで電話もよこさないで何をやっていたんだ。こっちは前に調査に来たときに、お前らが職権濫用して人権侵害をしたことについて、弁護士と相談して訴える準備をしているんだぞ。」などと述べ、新井場調査官が「回答がなければ帳簿等を見せていただけないのですか。」と尋ねたのに対しても「見せないとは言っていない。この前の回答をまだもらっていないということだ。」などと述べながら、先の抗議に対する税務署側の回答がなければ帳簿書類は見せられないとの態度を示し、調査への協力を拒んだ。

また、この電話の中で、乙は後で都合のいい日を連絡すると述べていたものの、その後、原告や乙から十和田税務署に対し、調査の日程に関する連絡は一切なかった。

4  新井場調査官は、平成四年一月一三日午後、原告に電話をかけ、同月一六日ころに帳簿の確認のために訪問したいと述べたところ、原告は、乙と相談してその日のうちに回答すると答えた。

乙は、同日四時ころ、十和田税務署に電話をし、原告方は法事で同月一六日から不在である、帳簿を見たければ民商の方に行って見てくれ、と述べ、新井場調査官が帳簿は原告と乙に会って確認したいと申し出たのに対しても「お前が来るんだったら調査に応じるわけにはいかない。民商と相談してお前とは話をしないことにした。お前の顔も見たくないし話もしたくない。」、「お前の件は弁護士と相談して決着をつける。」などと述べ、他の都合の良い日がないかとの問いかけに対しても「いつでもいいがお前が来るのではいつもだめだ。お前だったら絶対に調査に応じない。帳簿は民商に預けてあるから見たかったら他の者がそっちに行ったらいいだろう。お前とは話をしないからな」などと述べて一方的に電話を切った。

新井場調査官からこの電話の内容につき報告を受けた玉川統括国税調査官は、原告や乙の気持ちが落ち着くまで原告の調査の担当者を交替するよう指示を出した。

5  鈴木事務官は、同年三月下旬ころ、原告の課税調査に関して担当者として連絡を取ること及び平成三年分の税金も調査対象とすることを玉川統括国税調査官から指示され、平成四年四月六日午後原告方に電話をかけ、その週のうちにでも訪問をしたい旨を告げた。これに対し、原告は、「乙が帰ったら電話をさせる、今は血圧が高い」などと答えた。

乙は、同日の夕方五時過ぎに十和田税務署に電話をかけ、鈴木事務官が同月八日に訪問して続きの調査をしたい旨告げたのに対し、「調査は拒否しますから。前の問題もこっちは納得していないし、税務署のほうから回答ももらっていない。」と述べた。さらに、鈴木事務官が、その件は総務課長が窓口であり、とにかく調査に協力して欲しいと話をしたのに対しても、乙は、「だめだ。今は拒否しますから。弁護士にも話したが、そんなのは不正だ。こっちは不正もしていないのに調査に来て、部屋にあがったり現金を見たり、前の分を調べるのに今のを見たり。来年分を調査しているわけでもないんだろう。」などと繰り返し述べ、最後には一方的に電話を切った。

鈴木事務官は、同月八日午後に多田正喜事務官とともに「B」を訪れたところ、初回の訪問では原告及び乙は不在であったが、午後四時ころの二度目の訪問では乙と会うことができた。しかし、乙は、「税務署の調査に対して疑問を感じている、何回も言っているが、いきなり調査にやってきて寝室に入ったりたんすを開けたりして、そんなことが許されると思っているのか。」などと述べ、さらに、鈴木事務官らが「税務署の調査はあくまで本人の了解をもらって確認をさせてもらっています。勝手にたんすなどを開けたりしてはいないです。」と答えたのに対し、「いやいや、何も了解していないよ。それに課長にもおたくらのそういう勝手な行動について話をしたけれどきちんとした回答をしてこないし、私は全然納得しない。」と述べた。そして、乙は、なおも調査への協力を求める鈴木事務官らに対し「だめだ今は。弁護士を頼んでいろいろやっている。」と述べた挙げ句、「ちょっと待て。今民商に電話するから。」と言って電話をかけた後に「電話したらカメラで撮ればいいと言われたから撮ってやるぞ。そこに二人で立ってて。」と言って鈴木事務官らの制止を無視して同人らの写真を撮り始めた。このため、鈴木事務官は、調査は不可能と判断し、次回の調査のために同月一三日に再度訪問する旨告げてその場を辞去した。

6  浦屋敷悦夫上席調査官と鈴木事務官が平成四年四月一三日に「B」を訪れると、店内にいた乙は、「また来たのか、帳簿とかは民商に預けてあるから民商に行け。不当なやり方、人権を無視したようなやり方をして、謝罪もないのか。」「この間は玄関先に何時間いたんだ。あれは営業妨害だ。ちゃんと写真も撮ったからな。」などと述べた上、途中で話を打ち切って外出してしまった。

7  平成四年五月二七日午後、鈴木事務官と多田事務官が二度にわたり「B」に臨場したところ、いずれも原告及び乙が不在であったため、同人らは女子従業員に対して原告から税務署に電話連絡してほしいとの伝言を依頼した。

すると同日午後五時過ぎころ乙から多田事務官に電話があり、当時不在であった同事務官が折り返し電話をして繰り返し調査への協力を求めたところ、乙は、なおも協力を拒んだ。そこで、多田事務官は、税務署独自の調査に移る旨を告げた。

8  その後異動になった鈴木事務官から原告に関する調査を引き継いだ土田彰調査官は、平成四年八月一一日午後、佐藤雄幸統括国税調査官とともに「B」に臨場し、応対した原告に対し調査のために臨場した旨告げたところ、原告は、「ちょっと待ってください。今呼んできますから。」と述べて「A」の方へ向かった。佐藤調査官らが「A」の外で待っていたところ、「A」から出てきた原告は、「後でこちらから連絡しますから。」と述べ、「申告者は奥さんでしょう。」との佐藤調査官の言葉に対しても「血圧が高くて体調が良くないので。」と答えるのみであった。そこで、佐藤調査官らは、原告に連絡先を書いたメモを渡し、調査への協力を依頼して辞去した。

同日午後四時ころ乙から佐藤調査官に電話があり、同調査官は乙に調査協力を依頼したが、乙は、「まだ回答をもらっていないので一切調査に応ずる気持ちはない。」、「新井場とか鈴木とか違法なことをしたものを転勤させてうやむやでもみ消すつもりか。」、「こちらは訴訟を起こすようにしている。」などと述べるのみで、それでは税務署独自の調査を行うしかない旨を佐藤調査官が告げると、同様の発言を繰り返した後に一方的に電話を切った。

9  佐藤及び土田の両調査官は、平成四年一二月一七日午前一〇時ころ、独自の調査の結果に基づき原告に修正申告を促すために「B」に臨場した。ところが、応対に出た女子職員が原告は就寝中であるとして取り次ぎを拒んだため、土田調査官は、「ごめんください」と声を掛けた。

すると、乙が激昂して店内に現れて、「娘が昨日遅く体調が良くないと帰ってきて二階で寝ているのに、お前らここで何をしている。病人が寝ているところに来て無理矢理起こすとは人権侵害だ。」などとまくしたて、さらにどこかに電話を掛けて「弁護士を頼まないといけない。人を集めてほしい。」などと話しながら佐藤調査官らの氏名を尋ねた。乙は、電話を終えると、カメラを持ち出して土田調査官の制止も聞かずに同人らの写真を撮り、さらに警察を呼ぶ、税務署へ電話をするなどと言って電話帳をめくった後、再び佐藤調査官らの顔写真を撮った上、「そこにいろよ。」と言い残して店舗二階に上がって行った。

佐藤調査官らは、このような状況では正常に話をすることは困難であると考え、階下から二階に向けて「今日はこれで帰ります。」と告げ、店舗に戻ってきた従業員に対しても同様の旨告げてその場を辞去した。

土田調査官は、同日夕方にも修正申告を促すために「B」及び「A」に何度か電話をしたが、原告は不在で連絡が取れなかった。

10  土田調査官は、右の翌日である同年一二月一八日午後三時ころ、修正申告を促すために再び「B」及び「A」に電話をしたが応答はなく、さらに同日午後五時ころに佐藤調査官とともに「B」に臨場したところでも、従業員がいたのみで、原告は外出中とのことであったため、同月二一日午前に連絡をほしい旨記したメモを原告に渡すよう従業員に依頼してその場を辞去した。

その後、同月二一日午前中には、乙が民主商工会の事務局長ら六名を伴って十和田税務署を訪れるなどしたが、原告からの連絡はなかった。

二  税務調査の違法について

1  更正処分に先立つ税務調査の違法が当該処分にいかなる影響を及ぼすかという点については、納税義務者が負担する納税義務は租税実体法により課税標準に基づき客観的一義的に内容が定まるものであって、その課税要件の存否や内容を確定するための税務調査はその手段たる手続にすぎず、調査手続の内容自体が課税処分の要件となり納税義務者の義務内容に影響を及ぼすものではないから、更正処分に先立つ税務調査の単なる手続上の違法が直ちに更正処分の取消事由となるとは解されない。しかしながら、税務調査の違法が刑罰法規に触れたり公序良俗に反する等その手続自体を税務調査とは評価できず、その違法性の程度が著しい場合には、将来の違法手続の事前抑制の見地から、当該税務調査の違法は更正処分の取消事由となり得るものと解するのが相当である。

2  右のような観点から、原告の主張を検討するに、原告の指摘する税務調査の違法は多岐にわたるが、そもそも平成三年九月二四日に行われた初回の調査においては、前認定のとおり調査担当係官である新井場調査官は原告に身分証明書を提示した上、調査理由の開示を一応しているのであって、右当日の調査において調査担当係官が原告の制止を無視して二階の寝室についてきたとする点を除いて、いずれもその指摘する事実を認めることができないか、それが認められるとしても、本件各処分の取消事由となるような重大な違法があると評価すべき余地はないから、主張自体失当というべきである。

そこで、右の点について検討するに、新井場調査官らの現金や預金の確認の申入れに対し、原告は、現金や預金を二階の寝室に保管してあるが、掃除をしていないことを理由に一旦は断ったものの、最終的には入り口まででいいとの新井場調査官の説得に応じて二階に上がって行ったこと、原告に随行して二階に上がった鈴木事務官も、寝室の戸口の手前の階段のところで立ち止まり、その場で原告がタンスからバッグ等を取り出すのを確認するにとどめ寝室の中までには立ち入らなかったこと、その際、原告は、鈴木事務官が二階に上がることについて特に拒否するような素振りを示さなかったこと、その後、原告が二階にもう一つバッグがあると言うので、鈴木事務官は原告に随行して二階の寝室に入り原告がタンスからバッグを取り出すのを確認したこと、この際も、原告は鈴木事務官が寝室内に立ち入ることについてとりたてて拒否するような態度は示さなかったこと等前認定の事実関係に照らすと、鈴木事務官が二階に上がったことや寝室内に立ち入ったことについては、少なくとも原告の黙示の承諾があったものと認めるのが相当である。したがって、鈴木事務官が原告の制止を無視して二階の寝室についてきたとする原告の主張は採用できない。

その他、本件税務調査の過程において、本件各処分の取消事由となるような重大な違法があったとは認めることができない。

そうすると、税務調査の違法をいう原告の主張は採用できない。

三  推計課税の必要性について

1  前記認定事実によれば、原告及び乙は、同人らが不在だった場合を除いても述べ五回にわたる調査担当者らの臨場調査に対し、平成三年九月二四日の初回の調査の際は帳簿書類が手元にないなどして提示しようとせず、次回以降の調査では、乙において初回の調査態様の違法を論難し、原告や乙の抗議に対する回答がない限り帳簿の閲覧には応じられない、あるいは帳簿書類は他の場所に預けてあるな

どと述べ続け、電話連絡に対しても調査を拒絶する態度を明確にし続けるなどして、原告立会いの下での帳簿書類の調査を一貫して拒否し続けていたものであり、原告においても、税務調査への対応を乙に一任した上で同人の言動を放置し、初回の臨場調査から本件各処分に至るまでの一年以上もの間、担当係官による帳簿の閲覧調査に対し非協力的な姿勢を堅持し続けたものということができる。

そうすると、本件各処分当時、被告において、本件各処分に係る課税標準である原告の所得金額や売上金額を実額によって把握するに足りる資料を調査によって得ることは不可能ないし著しく困難であり、推計課税による更正処分を行う必要性があったものというべきである。

2  もっとも、この点につき、原告は、本件各処分以前の調査の際、原告は売上伝票等の資料を提出する予定であったし、乙も調査担当者に事情を説明しようと申し出たが被告側が一方的に調査をうち切ったものであると主張し、証人乙の証言及び原告本人尋問の結果中には、商工会に預けてあった帳簿書類が返ってきたら税務署に届けると申し出たが調査担当者がその必要はないと述べたとする部分があるけれども、前認定のとおり原告らは担当係官に対し帳簿書類の閲覧や提出を拒否する態度に終始していたこと等に照らし、右証拠部分は、いずれも信用し難く、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、不適切な調査に対して異議を述べて抗議をするのは正当な行為であって、そのような態度をもって推計課税の必要性を認定することはできないと主張する。しかしながら、本件税務調査に違法がなかったことは前示のとおりである上、前認定のとおり原告及び乙は単に異議を述べて抗議するにとどまらず、担当係官による帳簿の閲覧調査に対し非協力的な姿勢を堅持し続けていたのであるから、このことをもって推計の必要性を認める妨げとはならないというべきである。したがって、原告の右主張は採用できない。

さらに、原告は、本件各処分に対する異議申立手続において実額課税を可能とするだけの帳簿書類を提出したが、被告が右資料を検討し、あるいは被告が乙に対して事情聴取を行えば実額課税は可能であったのに、被告は実額課税をしなかったと主張するけれども、推計課税の必要性の要件は原処分時を基準にして判断すべきものであるから、右主張は、本件各処分の適法性を争うためのものとしてはそれ自体失当である。

3  右によれば、推計課税の必要性に関する被告の主張は、理由がある。

三  推計課税の合理性について

1  証拠(乙五、六、一一ないし一三の各1、2、証人土田彰)及び弁論の全趣旨によれば、本件各処分の適法性を基礎づける課税標準を算出する過程で被告が用いた推計の方法は、前記第二事案の概要二3被告の主張(一)記載のとおりであると認められる。

ところで、原告が各事業につき各課税期間内に仕入れた酒類の原価の数額に類似同業者比率を乗じて課税標準を算出するこのような方法は、納税義務者に関する財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他の事業の規模により各種所得や損失の金額を算定する推計課税(所得税法一五六条参照)において一般的に用いられる推計の方法の一つである、いわゆる比率法に該当するものである。そして、同業者率の抽出において被告が用いた抽出基準は、業種、事業形態、立地条件、事業規模(いわゆる倍半基準)等の同一性や類似性に着目したものであってそれ自体の合理性は認められるし、また抽出の過程では資料の正確性に対する配慮もされており、抽出の過程においても被告の恣意が働いた形跡はなく、抽出の結果得られた個々の同業者率の数値も合理的な分布の範囲内に収まっていると認められる(別表一参照)。これらの事情を総合すると、被告主張の推計方法は、本件各処分の適法性を基礎づけるに足りる合理性を有しているものというべきである。

2  これに対し、原告は、<1>被告主張の推計の方法は営業実態を無視したものになりかねないこと、<2>十和田税務署管轄地域内の類似の同種業者の数は限られその平均値を取っても営業実態と乖離した値が出る危険は高く、現に被告は原告の営業地域とは経済力の異なる八戸税務署管内の同業者を抽出していると主張する。

しかしながら、推計課税とは、実額課税が困難である場合にやむを得ず課税庁に認められる課税標準算出のための代替的証明手段であるというべきところ、このような推計課税の本質に照らすと、推計に要求される合理性とは、真実の納税義務者の所得金額等を導出するような厳密なものである必要はなく、資料や時間の制約、課税庁の調査能力、当該納税義務者間の公平といった点を考慮して、採用された推計方法それ自体が当該納税義務者の所得金額等を認定する方法として社会通念上相当と認められれば足りるというべきである。

このように、推計課税の本質に照らし右の意味における推計方法の相当性が認められるかぎり推計結果は必ずしも個別の営業実態を厳密に反映する必要がないと解されるところ、前記1で説示したところによれば、被告主張の推計方法は右の意味における社会的相当性を十分に有しているということができるから、原告の主張中<1>の点は理由がない。

また、<2>の点については、被告が本件各処分をするに当たり、スナック業について十和田税務署管内では他の抽出基準により抽出される同業者がなかったため立地条件の類似性の基準の内容を青森県内に緩和したことは右に認定したとおりである。しかしながら、被告が行ったこのような基準の緩和は、管轄区域の経済規模からくる資料収集上の制約によるものであり、青森県内の他の税務署管轄地域と比較し十和田税務署管轄地域を特殊とみるべき特段の事情は見当たらないし、立地条件の基準を十和田税務署管内から青森県全域に広げたとしても、業種や事業規模、事業形態といった他の基準が依然として満たされている限りこの基準で抽出された集団から得られる平均値の合理性が直ちに失われるものとは解されない上、立地条件を十和田税務署管内に維持しながら業種や事業規模の基準(倍半基準)を緩和することを考えれば他の基準に先立って立地条件の基準を拡大することには合理性が認められること等を総合考慮すると、右のような立地条件の緩和によっても、被告主張の推計方法は依然として社会通念上の相当性を備えているというべきである。したがって、原告の主張はやはり理由がない。

3  右によれば、推計課税の合理性をいう被告の主張は理由がある。

四  結論

以上によれば、本件各処分は適法なものと認められるから、原告の請求はいずれも理由がなく棄却を免れない。

(裁判長裁判官 山﨑勉 裁判官 畠山新 裁判官 宮﨑謙)

別紙一

課税の経緯一覧表

一 所得税

1 平成元年分

<省略>

2 平成二年分

<省略>

3 平成三年分

<省略>

別紙二

課税の経緯一覧表

二 消費税

1 平成二年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間

<省略>

2 平成三年一月一日から同年一二月三一日までの課税期間

<省略>

別表一

原告と事業規模等が類似する同業者の平均比率

<省略>

別表二

平成元年分ないし平成三年分の売上金額

<省略>

別表三

平成元年分ないし平成三年分の所得金額

<省略>

別表四

平成元年分ないし平成三年分の営業所得金額(総所得金額)

<省略>

別表五

平成元年分及び平成二年分の消費税の課税標準額

<省略>

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